アルコール依存症の特徴

コントロール障害

アルコール依存症になると、ほどほどの量のお酒で満足することができなくなります。自分で自分の飲酒を調節できなくなることを、コントロールの喪失といいます。今日は飲まずにいようと思っても、つい飲んでしまう、少しで切り上げようと思っていても、飲み出すと酔いつぶれるまで飲んでしまう、というように、飲み始めるとブレーキがきかなくなってしまうのです。コントロールを喪失するということは、お酒を「好きで」飲んでいるのではなく、アルコールという薬物によってお酒を「飲まされている」状態に近いといえます。このため節酒(ほどほどの量でやめること)は不可能であり、アルコール依存症から回復するためには、断酒(一切断つこと)しか方法はありません。

進行性の病気

アルコール依存症になると、ほどほどの量では満足できなくなるため、「アルコール依存症になる前と同じように楽しみながら飲む」ということは残念ながらもうできません。10年断酒をしていても、何かの拍子で1杯飲んで以来、再び飲酒が始まり、わずかな期間で以前の飲酒量に戻ってしまった、ということも多くあります。断酒をしていても病気の進行は止まっているだけで、治ったわけではありません。以前の状態には戻れない、これが進行性の病気と言われる理由です。

否認の病気

否認という心のはたらきによって、自分の飲酒問題をなかなか認めることができないという特徴があります。お酒を飲んで楽しかったという体験があれば、また飲みたいと思うのは当然のことですし、毎日何かにつけてお酒を飲み続けてきた人にとって、お酒が飲めなくなるということは、生活が一変することになり、それはとても不安なことです。そのため、お酒によって起きたさまざまな問題には目をつぶって、お酒を飲み続けようとする心のはたらきを否認といいます。しかし飲酒によってどのような結果が起きたかなどを否認してしまうと、全てを失ってもなお、飲酒を続けようとしてしまうこともあります。アルコール依存症からの回復は、飲酒の結果どのような問題が起こったか、自分に起きている事実を認めることからはじまります。

アルコール依存症の症状

離脱症状

いわゆる禁断症状のことです。体の中にアルコールがある状態が続くと、逆にアルコールが抜けた時の方が異常だと体が感じてしまい、さまざまな症状が現れます。手のふるえ、寝汗をかく、眠れなくなる、焦燥感、下痢などです。人によっては、全身のふるえ、興奮、幻覚、見当識障害(自分が誰でどこにいるかわからない)などの重篤な症状が現れ、場合によっては死の危険あります。
離脱症状を手っ取り早く止めるには、またお酒を飲んでしまうことです。しかしこのことが断酒を始めることを難しくさせているともいえます。離脱症状を止めるために飲酒をしても、またそのお酒が抜けた時には、同じか更にひどい離脱症状がおそってきて、どんどんアルコール依存症が進行していってしまいます。

強い飲酒欲求

字のとおり、飲酒したくなる気持ちのことをいいます。ただこの欲求は、アルコール依存症でない人の飲酒欲求とは大きく異なり、病的に強いものです。なかなかアルコールをやめられないのは意思が弱いからではなく、飲酒欲求が病的に強いことが原因のひとつです。
アルコール依存症にまつわる誤解
アルコール依存症者は意志が弱いからお酒がやめられない、と思われがちです。時には本人でさえそう思っていることがあります。しかし前述のとおり意思と病気は全く関係がありません。意志の力でお酒をやめようとするのは、風邪を引いた時に意思の力で熱を下げようとしているのと同じことです。
アルコール依存症になるとお酒を飲むことが止められなくなるのには、アルコールの持つ作用が影響しています。まず、アルコール自体に依存性という性質があり、人が飲まずにはいられなくさせてしまうはたらきを持っています。 そのため、お酒なしでは普通の生活を送ることが難しくなってしまうのです。また、お酒を長い間飲み続けていると耐性がついてしまい、酔うために必要な量が増えてしまいます。簡単に言うと、以前と同じ量では酔えなくなるため、飲酒量が増えてしまうのです。お酒は20歳以上なら誰でも買える合法的なものですが、実は大麻や覚せい剤などの非合法薬物と変わらないぐらいの強さで依存性や耐性が生じることがわかっています。お酒をやめられなくさせてしまう性質を、お酒自身がもっていると言えます。

アルコール依存症からの回復

アルコール依存症は進行性の病気のため、アルコール依存症でない人と同じように「ほどほどの量で満足できる」状態に戻ることはできません。つまり治癒しない病気といえます。しかし断酒を続けることで、お酒を飲み続けて失ってきたさまざまなもの(例えば仕事・家族・健康・信用など)を取り戻したり、作り直すことはできます。アルコール依存症は回復できる病気なのです。ひとりで断酒を続けていくのはとても難しいことです。回復に役立つ方法として、治療の3本柱と呼ばれるものがあります。

通院

定期的に通院することによって、病気の医学的な知識や判断、薬などの情報を得ることができますし、回復のための具体的なサポートが受けられます。

服薬

酒をはじめて間もない時期は、眠れなかったり焦りやイライラ、不安が高まることがあります。このようなときは飲酒欲求が強くなりがちです。医師に相談し、お酒よりも安全な処方薬を使いながら乗り切りましょう。また、一時的にお酒を飲めない体質にする抗酒剤という薬もあります。毎朝服用することによって、“今日一日断酒するぞ”という気持ちを確認でき、上手に使うと断酒を続けていくためのお守りになります。

自助グループ

同じ問題を抱えて、その問題に取り組んでいこうとする人たちの集まりです。飲酒に関しての自助グループにはAA、断酒会があります。自助グループでは自分の気持ちや経験を話しますが、そこには批判も説教もなく、他のメンバーも同じ経験をしているからこその深い共感がうまれます。お酒を一緒にやめていこうとする人たちが身近にいることで断酒を続けやすくなります。また自分よりも早く断酒を始めた人もいるので、実際の経験に基づいた断酒のコツなども聞けます。

アルコール依存症は『お酒に対する認知(=見方や考え方、価値観、こだわり)の偏り』があるため、なかなかお酒がやめられません。カウンセリングなどによって、今までのお酒に対する認知を変えることで断酒継続を目指す、認知行動療法も有効といわれています。

参考文献
すずのきアルコールテキスト製作委員会 2005 アルコール依存症勉強会‐第三版

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