家族が抱える様々な問題

私たちは、社会的な生活を営む生き物です。社会は、大きく捉えれば学校や職場であり、そのなかで対人関係の問題や生活上の悩みが出てきます。しかし同じようなことは、より小さな社会、つまり家族のなかでも生じます。ただそれらの問題は、家族によって程度の差があります。というのも、その時々の家族関係や経済的な事情などによって、問題の受け止め方や性質が変わってくるからです。
そこで、家族問題を考えるときには、「3段階の予防」という視点が活きてきます。これは、家族心理学の立場から、ラバーテという心理臨床家が提案したものです。まず一次予防ですが、これはより充実した家庭生活を送るために、何らかの心理ストレスが生じた場合でも対応できる対処能力を育んでいく取り組みということになります。これは全ての家族に当てはまるでしょう。続いて第二次予防は、問題が起きる可能性が高まっている状態に対して、発生を未然に防ぐ取り組みです。家族にうつ状態から復帰した方がいて、再発しないよう対応が求められるなどの場合だと言えるでしょう。最後に第三次予防ですが、これは、いわゆる治療的な試みが必要となってくる状態だと言えます。何らかの問題が起きたと考えられる場合、危機介入(具体的な対策を取って、短期間のうちにバランスを元の状態に回復させる)的に専門的な援助を使うことで、問題の解消を目指します。
このように家族の問題を考えたとき、治療よりも未然に対処できる予防のほうが大切だということは、皆さんお分かりになるでしょう。もし何らかの心配事があれば抱えてしまわず、現在の家族のあり方がどのようなものかチェックしてみるような気持ちで、じっくり振り返る機会を持ってみると良いかも知れません。一般には、第三次予防の段階に入ったところでカウンセリングが必要になると考えられていますが、実際にはそれぞれの段階でカウンセリングでお手伝いできることがあります。

「家族システム」という考え方

個人が成長するように、家族も成長する力を持つ1つの単位として見なす、という考え方があります。良いことや悪いことも含め、それまでの家族の在りかたを変えてしまうような出来事(父親が昇進した、祖母が認知症になったetc.)があれば、家族システムは変化します。家族システムでは、「AのせいでBになった」というような単純な問題の捉え方をせず、「AはBに、BはCに、Cは巡り巡ってAに影響する」というように、円のような形でそれぞれの問題が関係し合っていると考えます。そのため、どの問題が悪いとは一概に言いませんが、システムの悪循環があると考えます。
思春期と呼ばれる年頃のお子さんのいる家庭を例に、これを考えてみましょう。父親が昇進して喜んだのもつかの間、部下が増え仕事の責任も重くなった父親は、帰宅が遅くなるようになりました。すると、それまで夫婦での会話を大切にしていた母親は、寂しさを覚えると同時に夫を支えて家庭を守らねばと思うあまり、子どものちょっとした帰宅の遅れなどを叱るようになりました。子どもは理由を説明しますが、ちょっとした心配事も問題と考える状態の母は更に子どもを叱るので、子どもはますます反抗するようになりました。母と子が争う家に帰るのは、疲れた身体には非常に辛いものです。夫は仕事を理由に、帰宅をより遅らせるようになりました。
この例の場合、「誰がどう悪い」と言い切るのは難しいのではないでしょうか。とはいえ、家族システムがこうした悪循環に入ってしまったときは、冷静な判断が出来なくなるものです。悪循環がなくても、当事者自身が客観的な判断をすることは、なかなか難しいものでしょう。思春期の子どもに対しては、あるていど自立を手助けしてやることが大切になってきますが、この母親のように自らの思いが先に立ったとき、望んだ方向とは違う結果を導いてしまうことは多々起こり得ます。

カウンセリングでお手伝いできること

初めに挙げたように、カウンセリングで可能なことは、予防と治療という二つの側面です。「まだまだカウンセリングを受けるほどではない」、という声をよく耳にしますが、多くの方が考える「カウンセリングを受けるほどの状態」になるよりも前に、予防的にちょっとした変化に対応してあげるのは、非常に健康的な対処の仕方だと言えます。上記の例で挙げたように、一時的にでも家族の変化を受け入れ、変わっていくことが難しいような家族システムを持った場合などには、家族療法が有効と言われています。家族療法では、いま現在家族が持っている能力を最大限に生かし、困っている問題に取り組みながら、家族の変化を促す援助をしていきます。毎日の出来事のなかから解決策を考えていくという点で、非常に取り組みやすいものと言えます。

参考文献
氏原寛・小川捷之・東山紘久・村瀬孝雄・山中康弘(共編) 1992 心理臨床大事典11章「家族」 培風館

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