社会不安障害とは

社会不安障害とは、人前で発言をする、人と食事をする、人前で字を書くといったパフォーマンスを行う際に、赤面・発汗・ふるえ、といった身体反応が生じ、このような反応のために、人前で恥をかくのではないかと恐れて対人場面を回避してしまう病態のことをいいます。
そして、自分自身が社会的・対人的に不適切であると感じているため、他者との良好な関係を維持できないと案じ、回避することには抵抗を持ちつつも対人関係からできるだけ身を退こうとしてしまいがちです。
古くから日本では「対人恐怖」と名づけられ、注目されてきた病気です。欧米における大規模な疫学調査において、生涯のうちで社会不安障害に罹患する確率は約13%であると報告されています。決して珍しい病気ではないと言えるでしょう。

社会不安障害とともに生じやすく、混同しやすい病気

うつ病

うつ病は、社会不安障害とともに生じやすい病気です。社会不安障害のために、人前に出るのを避けるようになり、孤独感を感じます。本来は「人と親しくなりたい」という願望が強いので、人との交流が希薄になることで大きな寂しさを感じてしまいがちです。また、自分は人とうまくやっていけない、自分は駄目な人間だ、劣った人間だ、と考えて、自信を失い、時には死んでしまいたいと思うこともあります。ただし、もともとうつ病のために人と関わるのが億劫になり、社会不安状態になるということもよく見られます。よく経過を見て治療の方法を選択することが必要です。

パニック障害

パニック障害もまた、社会不安障害とともに生じやすい病気です。社会不安障害における不安反応として、息切れや手足の震え、発汗といったパニック発作の形をとることがありますが、これはパニック障害におけるパニック発作とは異なります。パニック障害の場合、最終的に恐れていることは死んでしまうこと、あるいは身体に重大な危機が迫ることです。一方、社会不安障害の場合、人前で恥をかくことや、人から否定的評価を受けることを、一番恐れています。どちらを恐れているかを区別する方法の一つとして、回避場面に身をおいたとき、その場に他人がいることを最も恐れるか、それとも一人でいることを最も恐れるか、といったことを考えてみる方法があります。他人がその場にいることを恐れている場合、つまり一人であれば不安感は生じないという場合、社会不安障害であることが多いと言えます。実際には、両方の恐れを兼ね備えている場合も多いですが、基本的にこれらは別の病気として区別されます。

社会不安障害のメカニズム

社会不安障害になりやすい人は、もともと人から良い評価を得たいという思いが強く、そのため頑張り屋でもあります。しかし、同時に、「自分は劣っている」との考えも強く持っています。人から良い評価を得たいのに、自分は良い評価を得られない(あるいは否定的な評価を受ける)と考えると、人は強い恥や緊張感を感じるものです。そのような感情は不安反応となり、動悸や発汗、息切れ、手足のふるえといった形で表出されます。すると今度は、そのような身体反応が他人にどのように映っているのかといったことが非常に気になってきて、何とか身体反応を抑えようとするものです。しかし身体反応を抑えようとすればするほど、ますます身体に力が入ってきて、緊張してきてしまうのです。そのうち、そのような思いをすることを避けるために、人前でのパフォーマンスを避けるようになり、ひどくなると、全く人前に出ることを避けてしまうということが生じます。 社会不安は、人から高い評価を受けようとする一方で、その基準に見合わない自分をふがいなく思い、必死でそのような自分を隠そうとするものの、隠そうとすればするほどますます緊張してきてしまうという悪循環パターンの中で生じます。

社会不安障害に対する治療法

社会不安障害に対する治療には、薬物療法、認知行動療法、などがあります。認知行動療法では、まず体験をもとにしながら、社会不安状態を維持し、悪化させているメカニズムを理解します。これをもとに、どこをどう変えたら現在の悪循環パターンから抜け出せるのかを話し合います。そして実際に自己紹介や音読といった、普段人前で避けているパフォーマンスに挑戦します。単に試してみるだけでなく、パフォーマンスの最中はどんな気持ちでいたのか、また、客観的に見ると自分のパフォーマンスはどのように見えたのか、といったことを、専門的なサポートをもとに話し合います。そして自分が心配していたこと、すなわち「他の人の目に自分が否定的に映ったのではないか」という心配が本当に起こったかを確認します。そのようにしながら次第に回避場面を減らしていき、日常生活でより豊かな人との交流が持てるようになるよう援助します。

参考文献
樋口輝彦・久保木富房 2002 社会不安障害 日本評論社

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